わたしのあたまのなか

わたしのあたまのなかの言葉を書きたい時に書く場所。覚えておきたい出来事やお出かけの記録、おいしいものについてもよく書きます。

灰色のズボン

 

さて、わたしは普段家の中でヨレヨレの部屋着を着て過ごしているのだが、その中でも特別ヨレヨレダルダルなのが、灰色のズボンだ。

それは丈の長いズボンで、ツルツルとした素材。昔の刑事ドラマのような渋い灰色をしているが、長く履いているせいで、腰のゴムが伸びてしまい、歩いているとすぐに腰パンを通り越してふくらはぎまでズルズルと下がってくる。

もうこれはお役御免だわ、とその灰色のズボンを処分しようと、ついでに部屋着を整理していたら息子たちがやってきて言った。

「その灰色のやつ捨てんの?」

「うん、なんで?」と聞き返すと、2人とも口を揃えて言った。

「捨てんといて!それこそ、お母さんって感じの服やんか!」

わたしは驚いた。これこそが、わたしという感じだと…?このヨレヨレ・ダルダル・ズルズルのズボンが…?

よく聞くと息子たちは信じられないことに、このズボンのくたびれ具合には全く気づいておらず、1番長く履いているこのズボン姿のわたしに愛着があるとのことだった。

ゴムが伸びているので歩いているとズレてくることを伝えたが、どうしても捨ててほしくないと言う。

 

というわけで、仕方ないので捨てずに今も履いている。わたしとしても、歩いているとずり落ちる以外は体に馴染んだストレスフリーの履き心地のため、つい手にとってしまうのだ。

が、ポケットに携帯を入れて部屋の中を歩こうものなら、携帯の重みでどんどんズレて、最終的にはくるぶしまでストンとズボンがずり落ちる。また、洗濯を干すためにそれを履いて階段を登ると、ズボンがどんどんズレて下がってきて足元が遠山の金さんのようになってくるので、必ず「ああ、もう」と言いながら階段を登り切ったら洗濯カゴを床に置いてズボンを腰まで持ち上げないといけない。

1番スリリングなのは、それを履いたまま両手にゴミ袋を持って外にゴミ出しに行く時で、ちょっとずつズレてくるズボンを手首でたくし上げながら行く。もちろん、この時、絶対に携帯はポケットに入れて出てはならない。もしそうすれば、爽やかな朝の空の下でわたしの老いた臀部をご近所の皆様に披露する羽目になってしまうからだ。

 

毎回、洗濯で洗い上がったその灰色のズボンを干すたびに「わたしはいつまでこれを履き続けるのだろうか」と思う。けれど、時々洗濯物を畳む手伝いをしてくれる息子たちがそれを見つけると「あー、お母さんのズボンや!」と言いながら嬉しそうに言うので、やっぱりまだ捨てられないな、と、今日もまたわたしはズルズルヨレヨレのズボンを何度もたくし上げて履くのだった。