わたしのあたまのなか

わたしのあたまのなかの言葉を書きたい時に書く場所。覚えておきたい出来事やお出かけの記録、おいしいものについてもよく書きます。

虫のはなし

 

(タイトル通り、虫の話です。イラストや写真は出てきませんが、Gという表現が出てきます)

 

ある日の朝のこと。

一人でトイレに行けない息子(9)についていくため、廊下に出てふと玄関を見ると、さっきはいなかったのに、タイルの上でGがひっくり返ってジタバタしていた。

「なんで?!」思わず出た第一声だった。

そしてすぐに息子(9)に「リビングのお兄ちゃんのところに行きなさい!」と叫んだ。なぜなら息子(9)は虫が大の苦手でパニックを起こすし、退治したあともビクビクそわそわと落ち着かなくなってしまう。

息子(12)もそれを十分知っているので、わたしに向かって「弟はここにいてる!」と叫んで教えてくれた。

よし、ヤツはひっくり返って身動きが取れない状態だ。

9月に入ってすぐに設置したブラックキャップがいい仕事をしてくれたのだろう。玄関に2つ置いていてよかった。ヤツがいつの間に侵入してきて、今までどこに隠れていたのかを考えると気持ちが悪いが、とりあえず今は落ち着いてやっつけよう、と、玄関に置いてある殺虫スプレーを吹きかけると、なんと風力でひっくり返って元の姿に戻ったヤツが玄関の棚の下に歩いて逃げ始めたのだ!しまった!!ここで逃げられては大変、と、やや下から殺虫スプレーをもう一度吹きかけると、すでに弱っていたせいもあってかうまい具合に再び身動きが取れなくなった。

ふー、危なかった。ひっくり返ったヤツにはスプレーは危険。よく覚えておこう。その後、台所から持ってきた液体洗剤をかけると、ヤツはすぐに息絶えた。

 

「倒したで」と、言いながら息子(9)に「見ちゃった?」と、聞くと、「うん」と、答えたものの、素早く動き回る姿ではなかったからか、パニックを起こさず落ち着いて息子(12)に巻きついてじっとしていたのでホッとした。

 

元々、息子(9)は、ここまで虫が苦手な子どもではなかった。

幼稚園のころは小さいバッタやダンゴムシを捕まえていたし、蝉の幼虫が成虫に変わる瞬間を観察したこともある。それが変わったのは、2年前のある梅雨の夜のことだった。

当時、塾に通っていた息子(12)を迎えに行くついでに、夫の運転する車でガソリンスタンドに寄った時のことだ。遠目で見ても、ガソリンスタンドのライトに群がる虫の姿が見えた。蛾かそれ以外の何か羽虫だろうと思っていたら、それは大量のカメムシだった。カメムシと言っても丸いヘルメットのような形の小さな種類ではなく、光に群がりうわんうわんと飛んでいたのは、六角形の形のでかいカメムシたちだった。

そこはセルフ給油のガソリンスタンドだったので、夫が給油してくれている間、車内はわたしと息子(9)の2人きりだった。今思うと、それも息子(9)にとったら不安だったのかも知れない。

「めちゃくちゃカメムシいるやん」と言いながら、窓の外を眺めていると、わたしが座る助手席側の窓にカメムシが2匹ペタッとくっついた。(カメムシって裏から見るとこんなんなんやな)と思って見ていると、後部座席に座る息子(9)が「ぎゃー!!」と叫んだ。振り返ると、息子の窓にはカメムシが3匹くっついていた。

「窓を開けなければ入ってこないから大丈夫だよ」と声をかけたが、透明な窓の向こうでジリジリと動くカメムシの姿は迫力があったのだろう。息子はすでに半狂乱となって泣き叫び始めた。かと言って、今わたしが車を降りて、息子の窓にいるカメムシを払ったとて、乗降時のドアの隙間から車内に入ってきたらそれこそ大惨事になるし、停まっている車にすでに5匹もくっついているのだから、外に出たわたしにもくっつくかも知れない。

とにかく息子に「大丈夫」と言い続けているうちに夫が戻ってきた。一応後頭部や背中を確認したが、カメムシをくっつけて持ってきた様子はない。息子のただならぬ様子に驚きながらも「ちょっとあの数は異様やな」と夫も言いながら、ガソリンスタンドを離れた。

が、意外なことに、いくらスピードを出してもカメムシというのは窓から離れない。結局、息子は道中泣き続け、塾のそばのコンビニに停めてもらった時にわたしが降りて脱いだ靴の裏で車に張り付いたままだったカメムシを全部払い飛ばしたのだった。

それ以来である、息子(9)は虫が大の苦手になってしまった。

家の中で虫を見かけるとパニックを起こして息が荒くなり泣き叫ぶ。わたしとて虫は嫌いだが、蜂以外は怖くはない。小さなクモにも叫ぶ。「クモは飛ばへんから大丈夫」そう言ってもテーブルの上によじ登って震える。

 

とりあえず、今回のGにはそこまでのパニックを起こさなくてよかった。

わたし自身も極力Gは見たくないので、対策はしているが、ヤツらはいつの間にか家の中にいる。蚊やハエのようにプーンと音を立てて「ここにいるっすよ」くらいのアピールをしてくれたらすぐに対処できるのに、ヤツらは静かすぎる。あと、家の中で会うにはでかすぎる。

だからわたしは今日も家の中を見回す。虫がいたら息子が気づくよりも前に静かに退治する。息子たちが不在の間に、窓や玄関に殺虫スプレーを撒いて、家の中に虫が入ってこないように結界を張る。

息子が成長すればきっと過度な虫嫌いもだんだんとましにはなってくるだろうと思っているが、その日が来るまで、守ってあげられる間は極力虫が出ないように気をつけるしかないのだ。