この記事にはアフィリエイト広告が含まれます
今日はわたしが読んだ本について書き残しておきたいと思う。
もしかしたら口調が少しかたいかも知れない。なぜなら、わたしは今「成瀬は都を駆け抜ける」を読み終えてページを閉じたばかりだからだ。「成瀬ー」を読んだあとは、いつもあたまのなかが成瀬口調になる。後半に連れ、元に戻っていくだろうから気にせずに読んでくれたらいい。本来であれば読んだ順番に書き残しておきたいところだが、まずは今読み終えたばかりの「成瀬は都を駆け抜ける」の感想を最初に書こうと思う。
1、成瀬は都を駆け抜ける
宮島未奈

シリーズ三冊目にして、完結編。
正直なところ、まだまだ読み続けていたいのだけれど、ホップステップジャンプの三つで終わるところがなんとなく成瀬らしい。もう、成瀬たちに会えないのかと思うとさみしいけれど、これでよかったのだ。
先に読んだ夫がわたしに本を渡しながら「最高やったわ。ずっと成瀬のままやった。」と、言った。完結編だから、期待作だから、といった気負いが全く感じられず、あの成瀬のままで楽しめたという意味らしい。夫は普段ビジネス本を多く読み、わたしはエッセイや小説と、普段であればお互いが読む本が交差することはまずない。けれど、この成瀬シリーズは別でわたしと夫は一作目からずっと同じタイミングで読んできたので、わたしたちにとっても深い思い入れのある作品だ。
さて、ここまで書いて成瀬シリーズをまだ読んでおられない方は「どんな本やねん」と気になるところだと思うけれど、もうとにかく一作目の「成瀬は天下を取りに行く」から読んでいただきたいとしか言えない。まるで清々しい水をごくごく飲むかのごとく、本の中の文章が体に沁みこんでいくように、なんとも読みやすく楽しめる本なのだ。三作とも最高だった。ぐっと胸に来たり、きゅんと胸を掴まれたりした。
ありがとう、成瀬。
きっと読み返すから、またその時に会おう。
2、何者かになりたくて
ガクテンソク奥田修二

奥田さんの話し方、言葉の選び方が好きだ。
あたまのなかをギュルルルルと瞬時に動かして紡ぎだす言葉は的を得ていて気持ちがいいし、穏やかな目と声は、愛されていた人という確かな安心を感じることができる。
わたしがそう感じるのは、奥田さんのnoteを読んでいたせいだろう。読み続けてしばらく経ったころ、幼い時は家では「しゅうちゃん」呼びが変化して「ちゅんちゅる」と呼ばれていたと知り、その一文でこの人がどれだけ可愛がられていたかを知った。この本に出てくる家族のお話でも、温かい家族であることがわかるし、芯の強さが感じられる。
ただ、奥田さんの目線で見続けたせいだろうか、わたしはよじょうさんがあまり好きではない。
3、アフロえみ子の四季の食卓
稲垣えみ子

数か月前、図書館でふとタイトルが気になって稲垣さんの「もうレシピ本はいらない」という本を読んでみた。なんでも、冷蔵庫を手放しガス契約を止めて江戸時代を参考にした保存食などを活用して、それでも美味しく彩りのあるごはんを作っているという。それを読んだらもうちょっとこの人について知りたくなったのと、一冊手元に置いておきたくてこの本を買ったのだった。
稲垣さんについては「アフロの人」ということで知っていた。なんとなく厳しくて怖い人なのかな、と思っていたら、全然そうではなくてただの食いしん坊の人が書く美味しい文章だった。
ぬか漬けと、お味噌汁と、梅干し、海苔、さらに干し大根おろしを3日に1回の炊きたて玄米ごはんに乗せて食べる、という献立を想像すると、おなかのなかがほわっと温かくなる。さらに、自宅近くのお豆腐屋さんで買ってきた厚揚げをガスコンロでじーじーと焼いておろし生姜と醤油でかきこむ、なんて描写も「あ、あ、厚揚げが食べたい…!」と思わされるたまらない一品だ。
現実には、我が家には食べ盛りの息子たちと、夫(40代でもまだ食べ盛り)がいるため、そのような献立をした日には「…で、メインは?」だの「え、これだけ?!」だの言われることはわかっているので、到底できない。けれど、この本を読んでから、一人のお昼ごはんの時は、ごはんとお漬物と納豆や、おにぎりとお味噌汁などを好むようになった。真似にも何にもなっていないのだけれど、おなかのなかがほわっとするもの、を食べたくなったのだ。
4、台湾はおばちゃんで回ってる?!
近藤弥生子

大昔に職場の慰安旅行で台湾に行った時に、そのおおらかさがとても気に入った。古き良き場所はそのまま残されながらも、新しい時代もちゃんと取り入れている。たった2泊3日の旅だったので、いいところしか知らないままだったけれど、それ以来、台湾はわたしがまたいつかもう一度行きたい場所として記憶に残っている。
この本はそんな台湾がタイトルについていたし「おばちゃんで回ってるってどういうこと?」と気になって読んだ。
何事も「あの言い方でよかったかな」「もっとできることがあったのかも」などとあたまのなかであれこれ考えがちなわたしには台湾のおばちゃんたちの考え方やものの言い方などが「そうか、それでもいいんや」と気が楽になるところが多かった。もちろん台湾の人の生き方を(それも一部の人の生き方や言動を)まるごと真似するとなると、台湾と日本の文化の違いもあってできやしないけれど、自分の中に小さい台湾のおばちゃんの部分を置いておくのはいいことかも知れないな、と思った。
5、私労働小説 負債の重力にあらがって
ブレイディみかこ

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読んで以来ブレイディみかこさんの本が出ていたら、わたしはわくわくしながら手に取る。本の中にある鋭い目線で描かれる文章、静かな怒りの文章、諦めながらも絶望はしていないその力強い文章を読むたびに、わたしの視野はちょっとずつ広くなっているような感覚になるからだ。
存在を軽んじられること、自我を踏みにじられること、周りが全員敵だと感じる場面、働いていれば大なり小なり感じるであろうそれらを、連作短編集という形で表現したこの本はわたしにとって忘れられない一冊となった。働くことにおいての怒り、理不尽、悔しさなどが伝わり、ぐつぐつと静かに怒りの鍋をかき混ぜるような本だった。
さて、この「私労働小説 負債の重力にあらがって」は「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」という作品のセカンドシーズンらしく、それをわたしは読み損ねてしまっていたようだ。出版された順番とは異なるけれど「ザ・シット・ジョブ」も、これから読みたいと思う。
6、迷ったら笑っといてください
濱田祐太郎

最近よくYouTubeのショートでこの芸人の濱田さんの映像が流れるようになり、気になって読んだ一冊。わたしは、濱田さんがR-1ぐらんぷりで優勝した時もたまたま見ていたけれど、そのころのことはあまり覚えていなかった。
今回、この本を読んで、自分の中の線引きや軸はずれないけれど、それをクリアしていたら何事にも柔軟な人なんだな、と知った。
目が見えないまま舞台に立つなんてどんな感覚だろう、と読む前は思った瞬間もあったけれど、読み進めるうちに、目が見えていたとて面白くなければ舞台になぞ立てないじゃないか、と、気づいた。何も、見えることは万能ではなくて、瞬発力と自分の軸足を確かにすることが大事なんだな、と。
濱田さんのことが好きになったか、と問われたら別に読む前と何も変わらない。けれど、読まなければよかったか?と問われたらそんなこともない。そんな一冊だった。