わたしは仕事に行く時、最寄りの駅まで自転車で行っている。毎日出勤するわけではないため、定期利用ではなく一時預かりの駐輪場に停めるので、最初は一番駅に近い駐輪場を使っていた。そこは近いだけあって駐輪場代がやや高い。しかも、先払いのため受付にいるおじさんにお金を手渡して、さらには駐輪許可証も受け取らないといけない。
もちろん、おじさんは手慣れているのでそれらを流れるような早さで済ませてくれるけれど、たまに駐輪場慣れしていないお客さんもいる。すると、受付の順番が来てからお財布の中の小銭を探ったりされるものだから、その方の後ろだったりすると駐輪場は目の前なのになかなか停められず、しかもそんな時に限って電車の時間がギリギリだったりして非常に焦る。
友人にそのことを話したら「ちょっと駅から遠くなるけどA駐輪場だと後払いで駅前より安いよ」と、教えてくれた。それ以来わたしは心の中でおじさんたちに別れを告げて、A駐輪場に乗り換えることにした。
さて、A駐輪場は縦に長い駐輪場なので奥までぎっしり自転車をたくさん停めることができる。一つしかない出入口から近い手前の駐輪場からどんどん埋まっていくため、わたしが停めるころには行き止まりの奥の場所しか空いていないけれど、いつ行っても奥に行けば空いているのがありがたい。料金も後払いで自動精算機なので楽だ。
ただ、ここに停めるようになって、わたしには、一つだけ困ることが出てきた。それは、自動精算機が出入口にしかないこと。
そう、わたしは駐輪番号を覚えていられないのだ。そのため、わたしは仕事帰りに自転車を取りに行く時に「ああ、もう、携帯に駐輪番号をメモしておけばよかった」などとブツブツ言いながら、出入口の精算機を一旦素通りして、自分の自転車が停まっている駐輪場の奥まで歩いて番号を見てからまた出入口の自動精算機まで戻ってお金を払い、やっと自転車を取りに行く。
さすがにばかばかしいので、毎回停めた時には「絶対携帯にメモしよう」と思うのに、朝、駐輪場から駅まで歩いているうちに、忘れてしまう。それに朝は番号をしっかり覚えていたはずなのに、仕事が終わって駅に着いた時には何番なのかわからない。
駐輪場を行ったり来たりと無駄なことを数回したのち、そうだ、自分が覚えやすい番号に停めればいいんだ!と、やっと気づいた。とは言え、わたしが停めるころには奥の番号しか空いていないので、駐輪番号は3ケタだ。それに、あまり奥まで行くと出入口から遠くなるのでほどほどの番号で停めなければならない。
何番にしようかな、と考えて、ふと思いついたのは117番だった。それは数年前に亡くなった夫の父のお誕生日、1月17日の117。
わたしが夫の父のシラフの状態を見たのは約20年の間でたった十数回。いつもビールをたらふく飲んではみんなが揃っているのにぐうぐう眠ったり、孫よりも競馬を優先したり、悪酔いしては嫌なことを言ってきたりと、周りを困らせる人ではあったけど、憎めない人でもあった。
そんなわけで、最近のわたしは117番、と駐輪番号をしっかり覚えているので、もう無駄に駐輪場を行ったり来たりせずに済んでいる。たまに117が埋まっていて別の番号に停めると番号を忘れて「ああ、もう!」と、嫌になることもあるけれど、わたしが117番に無事に自転車を停めて夫の父に思いを馳せながら駅まで足早に歩いている時、夫の父もまたわたしのそんな姿を見ていつものように酔っ払いながらニヤニヤと楽しそうに笑っているのではないかな、などと思うのであった。
