時々行くお気に入りのスーパーがある。
安い、というわけじゃないのだけど、品揃えがしっかりしていて、売り場も広いし、いつも行く近所のスーパーにはないメーカーの調味料もあったりして、気分転換にちょうどいい。
とは言え、やっぱり特別安いわけじゃないからなのか、いつ行ってもお客さんは少ない。さらに客層のほとんどはおじいちゃんやおばあちゃんが占めている。店員さんもフレンドリーではなく、ただ黙々と品出しやレジのお仕事に徹していて、そういう静かなお店の雰囲気と、人が少ないのでゆっくりとお買い物ができるところも含めて、わたしのお気に入りであるため、このお店が潰れてしまわないように、売り上げに貢献するべく、わたしは時々このスーパーまで足を伸ばしている。
時々、と、書いたのは、家からの距離的なものもあるのだけれど、実は他にも理由があった。それは、このスーパーには万引きGメンがいるので、よしっと気合いを入れないと買いにくいためだ。誤解のないように言っておくと、わたしは万引きをしたわけではない。しかし、わたしはここの万引きGメンのおじさんに目をつけられてしまっていた。
それは、わたしが(あっ、あの人万引きGメンだ!)と、気づいてしまったことがきっかけだったように思う。そのおじさんは、いつも後ろで手を組み、ぷらぷらと売り場を歩いていて、いつ見ても、釣りをする時に着るようなやたらとポケットがたくさんついているベストを着ていて、そのベストが特徴的なことと、いつでも有線のイヤホンを片耳に付けていることで、その姿は「いつもこのお店にいる不自然なおじさん」として、わたしの記憶に残った。
ある時(あっ、今日もいる!)と、売り場でそのおじさんに気づいた時、なんとそのおじさんとバッチリ目が合ってしまった。目が合ってみると、おじさんの眼光がとてもするどく、わたしは(やっぱり、あのおじさん万引きGメンや!)と、感じた。スッと目をそらし、そのままカートを押しておじさんのそばを離れながら、やっぱり目力があったなーなどと思いつつ、パン売り場でパンを選ぶことにした。
その時、ふと、視線を感じて右を見ると、なんと万引きGメンのおじさんは半身だけ棚に隠れた状態でわたしを見ているではないか!!
おじさんはわたしを目が合った瞬間、サッと棚に全身を隠した。いや、バレバレやん。それにしても、余計なことをしてしまった。わたしは普段から挙動不審だと家族や友人から言われることが多い。この時も特別意識はしていなかったけれど「万引きGメンやな」と、気づいたわたしの動向が、万引きGメンのおじさんにも挙動不審な要注意人物としてターゲットにされてしまったようだ。
結局、そのおじさんは、わたしがレジに行くまでずーっと忍者のようにしてついてきた。疑われるのは不本意ではあったけれど、おじさんだって、お仕事だから怪しい人物を追うしかないのだろう、と、そのまま放っておいた。
(今思うと、おじさんがついてきているかチラチラと確認していたのもよくなかった)
この日から1、2週間ほど空けて、またそのスーパーに行ったら、例のおじさんはやっぱりベストとイヤホンを身につけて売り場を歩いていた。けれど、さすがにわたしの顔など覚えていないだろう、と、思いつつも、目が合ったらまずいので、今度はそのおじさんをなるべく見ないようにするため、伏し目がちにカートを押しながらお買い物をした。
それは、アイス売り場で冷凍庫の扉を開けようとしていた時だった。なにやら視線を感じて(まさか...)と、思いながら、左を見るとやっぱり棚に半身隠したおじさんがわたしを見ていた。今度はなんとおじさんはわたしと目を合わせたまま隠れることすらしなかった。ずっとわたしを見ていた。やばい、わたし確実に万引き犯やと思われてる...?
わたしは無表情を貫き、冷凍庫から取り出したアイスをカゴに確実に入れて、おじさんに気づいていないフリをしながら(見てください、アイスをカゴに入れましたよ、わたし取ってませんよ?)と、言わんばかりに、わざとおじさんの前をゆっくり通り過ぎてみた。さあ、カゴの中を見るがいい、わたしは万引きなどしたこともなければ、これからするつもりもない善人なのだ!
...けれど、やっぱり、おじさんは気づくとわたしの視界についてまわり、その日もレジを終えるまで見張っていた。
以来、そのスーパーに行くたび、振り向くとおじさんはわたしのそばにいるようになった。シフトがあるのか、時々別の万引きGメンのおじさんが売り場を歩いており、その時だけは心穏やかにお買い物が出来た。ちなみになぜ別のおじさんのことも万引きGメンだと気づいたかというと、彼もまたポケットたくさんのベストと有線イヤホンをつけていたからだ。
(わたしはそのおじさんのことを「Gメン2号」と名づけることにした)
さて、先日久しぶりにスーパーに行ったら、万引きGメンのおじさんは、いなかった。どこを探してもベストと有線イヤホンのおじさんは1号も2号も、いなかった。病欠?ちょっと心配になる。それとも人事異動なのか。改めて、なぜあの目立つベストを着用していたのかを考えた。あれが、万引きGメンの制服だったのだろうか?
そんなことを考えながら、カートを押してお買い物を続けていたら、手を後ろで組んで歩いている爽やかなみずいろのポロシャツ姿のおじさんが目についた。あの歩き方...。イヤホンまでは確認できなかったけれど、わたしのなかのレーダーがピンときた。あのおじさん、もしかして…? いや、だめだ!ここで目が合ったら、またわたしは疑われてしまう!
と、思ったその瞬間。
そのおじさんは、精肉売り場の隣のバックヤードに通じる扉を開けて、ためらうことなく中に戻っていった。やっぱりそうだった。おじさんは3号にちがいない。それにしても堂々とバックヤードに消えるなんて、爪が甘いぞ!