わたしのあたまのなか

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さようなら、そろばん教室

 

3月から息子(10)が塾に通うようになった。

それは息子(13)がまだ小学生のころに通っていた塾だ。

 

兄が通っていた当時、塾の宿題やテストでいっぱいいっぱいになり、泣いたり叱られたりしている様子を誰よりも間近で見ていた息子なので、きっとこの子は中学受験どころか塾にも行かないだろうな、と思っていた。それなのに、親の予想は大きく外れ、小学3年生の終わりころになって自分から「4年生になったら、お兄ちゃんが行ってた塾に行きたい」と言い出した。ちなみに兄が通い出したのは4年生の5月からだったので、息子は随分前から自分なりにタイミングを考えていたのかもしれない。

ただ、初めての習い事が塾だった兄と違って、息子は2年生の夏からそろばん教室に通っていたので、塾を通うのであれば、曜日的な問題でその約1年半通ったそろばん教室を辞める必要があった。息子はそろばんも大好きだったし、何より優しいそろばん教室の先生のことも大好きだったので、息子にとっては迷うところだったし、わたしにとっても、信頼していたその先生から離れてしまうことはとてもさみしく悩むところだった。

 

息子の日々も、わたしたち家族にとっても、大きな変化が始まろうとしていた。そうは言っても、実際に塾の授業を受けなければ合う合わないがあるので、まずは、1週間の体験入塾をさせてもらうことにした。息子は、塾に行く決断をするということはそろばんを辞めなければならないことをちゃんと理解していたし、塾でもそろばんでもどちらでも自分がやりたい方を選んでほしいとわたしたちも伝えた。

体験入塾の1日目は、兄がとてもお世話になった算数の先生の授業だった。その先生の授業がわかりやすく楽しいことは兄からずっと聞いていたので、息子も絶対気に入るだろうな、と息子不在の家で家族で話した。いつもおしゃべりな息子がいない家はとても静かで、これから塾に通うことになるとこういう時間が増えるんだろうなと思うと、家族全員同じタイミングでそう感じていたらしい。家の中に一瞬シンとしんみりとした静かな時間が流れた。

 

わたしは思った。息子はきっと塾を選ぶだろう。ということは、中学受験をするということか。息子は最後まで走り切れるだろうか。逃げたくなった時に息子が出したサインにちゃんとわたしは気づけるだろうか。思うように成績が伸びなくなった時に傷つけないように導くことはできるだろうか。兄の中学受験の時の苦い思い出がぐるぐると頭を駆け巡る。中学受験をしたことで、嬉しい思い出や特別な経験だったという思いももちろんあるけれど、心の内は不安でいっぱいだった。まだ、志望校が決まったわけでもないし、体験入塾の時点だというのに!

 

「塾、めっちゃ楽しかった!行きたい!」と、ぴかぴかつやつやの顔で息子が帰ってきた。やっぱり、と思う自分と、よかった、と思う自分もいた。

元々そろばん教室の先生には、これまでの経緯をこまめに連絡していたので、3月の途中でそろばん教室を辞めることを正式にご連絡すると「息子くんはきっとこれからすごく伸びるので、いいご決断だったと思います!」と、応援するメッセージと共に「4月にある6級の珠算検定を受けてみませんか?」と、言ってくれた。今までは教室内で受けていた検定だけど、6級からは検定会場で受ける必要があり、息子はちょうどそれを受けられる時期になっていた。検定が行われるころには、すでに息子はそろばん教室を辞めてしまっているというのに、教室の生徒として検定会場まで他の生徒さんたちと一緒に先生が連れて行ってくれるという。

息子は以前からその検定会場で受ける6級には特別な思い入れを抱いていたので、塾に慣れて落ち着いたタイミングで、わたしがいつか検定に連れて行くつもりでいたけれど、先生が連れて行ってくれるなら絶対にその方が息子にとっても安心できるのでお願いをした。そして、5月に入って、無事6級合格の連絡が入ったとそろばん教室の先生から連絡が来たので、塾がない曜日の夕方に、賞状を受け取りに先生のもとへ2人で向かった。

 

先生は、いつものにこにことした優しい顔で教室から出てきて、息子に賞状を手渡してくれた。息子は先生に話したい事がいっぱいあるはずなのに、うんうんと頷くのが精いっぱいで口を開けずにいる。家ではいかにそろばんが大好きか、それと先生への感謝の気持ちをいつも話しているのに、性格や4年生という年齢的な照れもあってうまく言えないようだ。このままだったらきっと後悔するだろうなと思って「あの、息子は本当に先生に感謝していましたし、続けられるならずっとここに通いたかったです。自分で決めたとは言え、すごくさみしがっていました」と、息子の代わりに伝えると、先生はにこにこしながら「うんうん、先生にちゃんと伝わってるよ。先生も涙が出てしまいそうやけど我慢してるよ」と、言って息子と握手してくれた。「そろばん教室でずっと頑張ってる姿を見てきたからね、塾でもきっと頑張れるよ!また中学校に入ってそろばんをやりたくなったら、教室に戻ってきてくれてもいいからね」と、息子に言ってくれた。息子はぎゅっと口を固く結んで、またうんうんと頷いた。

先生にお別れを言って、最初の角を曲がって教室が見えなくなった途端、息子は思いっきり泣いた。さみしい、さみしい、と言ってわたしに抱きつきながらぼろぼろと泣くので「今から先生のところに戻って「やっぱりそろばん続けます!」って言ってもいいんやで?」と、すでに支払った塾の入学金のことなんて忘れて、わたしもつられてぽろぽろ泣きながら言ったら「いや、それはいいわ。今からやっぱり続けるっていうのはちょっとよう言わんわ」と、涙でぐじゃぐじゃに濡れた顔でクールに言われたので、思わず笑ってしまった。息子も笑った。

 

息子のあたらしくてむずかしい道の扉が開いたことを感じた。

翌日、わたしは机の前の壁にそろばん検定6級の賞状を額に入れて飾った。

いつか点数が伸び悩んだ時、6級に合格した時の自信を取り戻してほしくて。いつかもう塾なんて辞めたくなった時、自分にはまた戻ってもいい場所があることを思い出してほしくて。そして、自分には応援してくれている人がいることをずっと覚えていてほしくて。

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↓息子(13)の中学受験の記録

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