よくモールの中の通路で、チラシやティッシュを配っていることがあるが、わたしは話しかけられるのが苦手なこともあり、可能な限り、遠回りをして避けることにしている。
たまに遠回りをせずに、会釈して通り過ぎても、しばらく並んで歩いて話しかけられることもあり、何も契約する気のないわたしに、時間を使ってもらうのも申し訳なくなる。
先日も、モールの中を歩いていたら、携帯ショップの人が立っていた。けれど、その日はもう疲れていて遠回りするのも面倒だったので、会釈して通り過ぎようとしたら「ひとつだけ!ひとつだけ教えてください!」と、言われたので、ひとつでお役に立てるのなら、とつい足を止めたら「携帯電話はどこのものですか?」と、聞かれて答えた。
すると続けて「月々の料金は?」と、質問をされたので(ひとつって言うたやないか!)と、心の中で毒づき「これ以上は…話せません」と、貝のごとく口を閉じて早足で逃げたが、その時の店員さんの顔がまるで不審者を見るような目だったのが解せない。まあ、確かに「これ以上は話せません」なんて言葉、日常生活ではなかなか飛び出ないからだろうが。
今日も、イオンの中を歩いていたらウォーターサーバーの会社の方がいた。にこやかにティッシュを渡されたが、契約する気もないのに、足を止めては申し訳ないので、会釈をして避けたら「ぼくたち、おとといから準備してここにいるんですよ」と、突然言われた。思わず何をそんなに念入りに準備したんやろ?と、足を止めかけたが、心のどこかで「そんなこと言われてもなあ」と、思う気持ちもあったので、もう一度会釈して通り過ぎた。
ここにいるんですよ、と、わたしに教えた意味は一体なんだったのだ。気になって、つい足を止めさせたかったのか。それとも、それは大変やねと、足を止めるべきだったのか。いや、1年前から準備しているんですよなら「何を?」と、気になってつい止めたかもしれないが。なんだか悶々とさせられた一言だった。
さて、こう書くと、いっそのこと無視をして通ればいいのでは?と、思う方もいるかも知れない。実はわたしも若いころはそうだった。というのも、変に会釈すると、昔はもっとしつこく話しかける強引な人もいたからだ。
けれど、まだ結婚する前の20代のころ、大阪の梅田の道を歩いていたら、何かしらのチラシを配っている女の子(おそらく年下だった)がいた。その時は仕事の移動の最中で急いでいたので「どうぞー」と、出されたチラシに目を向けることもなく、素通りしたら「おい、無視かい!」と、怒鳴られてびっくりした。わたしは上司と移動中だったので、思わず顔を見ると、彼は全くの無表情で前だけ見ていたので、そうか、ここではよくあることなのだな、と思うと同時に、無視もよくないのだな、と、思った。
「おい、無視かい!」というのは、言葉としては乱暴すぎるが、存在を無視された彼女を傷つけてしまった、と、わたしはその時感じた。いるなら受け取る。いらなくても無視するな。そんな彼女の叫びに衝撃を受けたわたしは、それ以来、受け取らなくても必ず会釈をするようになった。
チラシ配りで思い出したが、わたしがまだ学生のころ、京都の四条河原町には、白衣を着たエステの勧誘の人がうじゃうじゃいた。本当にちょっと歩けばエステの勧誘を気軽にされたのである。
ただし、このエステの勧誘には、どうやら規制があったようで、声掛けの前に年齢を確認されることがあった。つまり、18歳以下だと契約ができないためらしい。わたしは当時19、20歳だったので、あちら側も見分けがつかない微妙な年齢で、よく「エステのご案内なんですけど、今っておいくつですか~?」と、声をかけられた。しかも、毎回断っても、ずーっと横をついてしばらく歩かれるので、本当にいつも困るなあと思っていた。学校の帰り道に、河原町を通る必要があったので、特に夕方は勧誘員の数が多く、同じエステの会社かどうかまではわからないが、毎日四条大橋の上まであちこち何度も声を掛けられてうんざりしていたのだ。
ある時(これって18歳ですって言ったらどうなるんやろ?)と思い「おいくつですか~?」の問いに「18歳です」と答えてみたら「あっ、そうなんや、ごめんね~」と、なぜか謝りながらスッと引き下がってくれた。
おお!こりゃいいわい、と、攻略法を見つけたわたしは、また別の日の勧誘に「18歳です」と答えたら、相手が相当な場数を踏んだ勧誘員だったらしく「干支は?」と、タメ口で返してきた。
わたしは羊年なので、頭の中で「ね、うし、とら…」と、羊の後ろの干支を順に考えてしまったが、この時点で嘘なのはバレバレなので「本当は19歳ですが、エステに興味がありません」と、足を止めて正直に話すと、相手は満足そうに、うんうん、と、うなづいて自分の持ち場に戻っていった。
あのうなづきは何だったのかわからないが、おそらく正直でよろしい、という意味だろう。なんで干支まで確認されなあかんねん…いう怒りは、あとから遅れてふつふつと湧いてきたが、あのうなづきとともに忘れられない経験になったのだった。