家の近くの商店街に、小さな精肉店がある。
わたしはそこでお肉を買ったことはまだないが、そこで売られている自家製のからあげが家族全員の大好物なので、つい先日もその日の晩ごはんのおかずにしようと買いに行った。その日の晩ごはんは前日のお鍋を使ったおじやに決めていたので、ちょっとつまめるからあげが、おかずにちょうどよかった。
ここのからあげは本当に美味しい。あまりにも美味しいのでどのように作っているのかを一度夫が尋ねたほどだ。「このからあげ粉を使ってるだけですよ」と、店員さんはレジ前で売っていた市販のからあげ粉を見せて教えてくれたが、わたしがここの鶏肉とその粉を使って家で揚げたとしても、こんなにもジューシーには作れないだろう。
さて、精肉店に到着すると、わたしの前には一人のお客さんがちょうどおつりをもらって帰るころだった。会話からするとどうやら常連さんらしい。そのお客さんと入れ違いにわたしが店に入る。
「からあげ500gください」とお願いすると「500gね」と店員さんがパックにからあげを詰め始めた。ちなみにここの店員さんは多分うちの母と同い年くらいだろうなと思われるおばあちゃんだが、いつも背筋をピンと伸ばしてチャキチャキと動く。そして、いつもポーカーフェイスで、余計な愛想はないが、秤でからあげのgを測ったあとに、2,3個ポイポイとからあげをパックに放り込んでおまけしてくれるのだ。「おまけしておきますね」とか、そんな野暮な言葉は一切なし。かっこいい。だからわたしも何も言わないが、最後にからあげを受け取る時に「ありがとうございます」と、ちゃんと大きな声で言うように心がけている。
ふと、鶏の肝焼きも目に入った。美味しそう。最近夫が疲れ気味だし、これも買おう。
「それと、肝焼きもお願いします」「はい、どうも」
からあげがミチミチに詰まったパックと肝焼きを1パック。店員さんはカタカタと電卓を弾いて「ん?」と首をかしげて、もう一度カタカタと弾いた。そして「うん」と納得して「〇〇〇〇円ね」と言った。
あれ?なんか高くない?からあげ500gと肝焼き1パックやのに?
そう思ったが、計算が苦手なわたしは瞬時に〇〇〇円くらい高い、と、弾き出せない。そして、お財布からお金を取り出しながら、店員さんが一度首をかしげたシーンを思い浮かべる。きっとあの時、店員さんも値段におかしいと思ったから計算をし直したはず。それでこのお会計ということは合ってるのか...?
チラッとからあげの100gの値段を見る。それに5を掛け算して肝焼きの値段を足す。やっぱりちょっと高い気がする。でも、いつもおまけしてくれはるし...。今日もおまけしてくれてはったし...
ちょうどお財布には、お会計分のお金が小銭までキッチリあった。
ええい、もうこれでええ!きっと合ってるんや!!
からあげを受け取りながら「ありがとうございます」と、いつも通り大きい声でお礼を言って家に戻り、やっぱり悶々とするので、レシートを見ようと思ってハタと気づいた。そういえば、あのお店でレシートもらったことないわ
そこで記憶している金額から肝焼きの代金をまず引き、そこから100gの金額で割ってみる。すると出てきた数字は、なんとからあげ1kgの金額だった。500gって言ったのに、なぜか1kgで計算されてるー?!念のためからあげのパックを持ってみる。いや、1kgは入っていない。やっぱり注文通りの500gだろう。でもなぜ...?ふと、わたしの前にいた常連さんの姿が浮かんだ。そういえばあの人もからあげ買ってなかった?
ははーん、なるほど。あのお客さんはわたしと同じ500gのからあげを買っていて、その金額が電卓に残っていた上に計算されてしまったので500g足されてしまったんだな。一件落着。しかし、と気づく。あの時店員さんは首をかしげて計算をやり直していた。ということは、電卓も一旦0になっているはずだ。おっと、この説は成り立たない。残念。
ああ、もう、わからない。
500g分のお金を多めに払ってしまったが、あの場面で「あれ?なんか高い気がします」と、言えなかったわたしも悪いのだ。あと、すぐに計算できないのも悪い。お金に関してはこう割り切ろうと思った。ただ、なぜ500g多めの計算になったのかがわからないことがどうしてもモヤモヤはする。だけど、いまさら言えないし。そんな風にぐるぐるモヤモヤな気持ちが30分ほど続いた。
でも、と、思った。でも、あの店員さんはいつもいつもおまけしてくれるじゃないか。それに、息子たちが「からあげたべたい!」というので、2人にお金を渡して買いに行かせたら、欲しい量のからあげが店頭になかったそうで、おまけに大きな手羽元のからあげをつけてくれたこともあった。それに、前は「少し待ってくれたら揚げたてを渡せますよ」と教えてくれて、アツアツのカリカリのからあげを家族で頬張りながら帰ったこともある。
あのお店にはたくさんお世話になっているのだ。人間だから間違うこともあるだろう。それにその場で言えなかったわたしが悪い。謎は解けないままだが、ここは気持ちよく500g分のお金はお店に寄付をしたと思うことにしよう。それがいい。
その日のからあげは、息子たちも夫にも大変喜ばれた。夕食後3つだけからあげが残っていたので(明日のお昼に食べようっと)と思って目を離したら、いつの間にかお皿の上は空っぽになっていた。ぐぐぐ...誰だ...と思ったが、家族全員が大好きなからあげなのだ。仕方がない。
また、買いに行こう。