夏からコツコツと読んでいた本が終わってしまった。
「読み終わった」と表現するよりは、まさに「終わってしまった」という気持ちの方が大きいほど、大冒険の本だった。
あらすじ
病で母を失った幼いディヴィッドは、父と2人きりの生活にも慣れず、その後義母となったローズにも反発心が芽生え、その間に生まれたジョージ―はかわいく思えない。どこにも心の居場所がなくなったある日、死んだはずの母の助けを求める声に導かれて庭の壁の割れ目の暗闇の中に入り込んでしまい...
幼いころからこだわりが強く、繊細な心の持ち主のディヴィッド。彼を取り巻く環境は子どもの力ではどうしたって抗えないような強さでぐるぐると大きく変わっていき、慣れたいような慣れたくないような反抗期の中、自分が住む世界とは全く違う別の世界に迷いこんでしまう。家に帰りたいけれど、帰ったとしても自分の居場所などないことが不安で仕方がない。しかも、大好きだった母親が自分に助けを求める声がどこからか聞こえてくるので、それを放って帰るわけにもいかない。
けれど、ディヴィッドが迷い込んだ世界は、生と死が隣合わせの異様な世界。安全な場所も、自分を包む温かな場所も、どこにもない。いつでもどこからでも、見たことのないような化け物が自分の命を狙っていて、危険な香りに満ち溢れている。
ただしこの本のことを「異世界の大冒険!」と、ただ表現してしまうのも全く違う。少年の心の重さ。それが、わたしはこの本の大きな魅力だと思っている。
例えば、自分の心の内面を深くえぐられるような瞬間、知らないふりをしていた心の汚れを見せつけられるような恥ずかしさ。かと思えば、信じる者の心の芯の強さ、気づかないふりをしていた心の本音など、全編に渡って「心」の動きが丁寧にじっくりと描かれていて、心が変化していくディヴィッドとともに、いつしか自分もディヴィッドとともに剣を握りしめ暗闇の中を進んでいた気になれる臨場感溢れる物語。
自分は何者で、そしてこれから自分は何になりたいのか。
少年に問うには重すぎる質問でも、血生臭いこの世界を歩いたディヴィッドにはしっくりとくる。
見たくないもの、聞きたくないものに蓋をしたくなるのが人間だが、それをこじ開けて直視させられるような。けれどそれを知ったことで、心の目はさらに広く大きくなるような。この本を読む前と読んだ後だと、確実に自分の心の在り方が変わった。そう言い切れる、この先到底忘れられないような壮大な物語だった。