わたしのあたまのなか

わたしのあたまのなかの言葉を書きたい時に書く場所。覚えておきたい出来事やお出かけの記録、おいしいものについてもよく書きます。

「父ちゃんの料理教室」

 

辻仁成さんの「パリの空の下で 息子とぼくの3000日」が好きで、もう何度か読み返している。

あのコロナの閉塞感、焦燥感を思い出すものの、日々の小さな発見や工夫で喜びを見出しているところや、変化する人間関係や、くっついたり離れたりする親子関係を読んでいるうちに、安心するのだ。

さて、この本では美味しいごはんがたびたび載っていて、それも楽しみのひとつなのだけれど、先日「父ちゃんの料理教室」という本を見つけたので、わくわくしながら買ってみた。

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読んでみると、料理本とエッセイが良い割合で書かれており、その料理が作られた背景などがわかって、やっぱり楽しい。工程ごとに写真があるわけじゃないし、1から順番に細かく書いているわけでもないから、レシピ本を期待して手に取ったらちょっとちがうかも知れないけれど、わたしは辻仁成さんの文章を読みながら料理も知りたいので、この本はぴったりだった。

それに、THEフランス料理というものが載っているわけでもなく、やたらと洗い物が多くなる面倒な料理が載っているわけでもない。載っているのは、味の想像がなんとなくつくけれど、こういうことを考えながら作ると楽しいよな、と思える料理ばかりで、ここに書かれているエッセイがやっぱり温かくて心がホッとするのがわかる。

 

せっかくだから、この中から何か作ってみよう!と、初めに載っていた「フランス風イカめし」を見ていたら夫が「イカか...あんまり好きじゃないねんな」と呟いた。うるせえ。イカどころか夫は好き嫌いが多い。例えば、トマト、なす、ズッキーニ、さやいんげん...他にもまだまだあった気はするが、さらにイカである。家族の嫌いなものを手間をかけて作るのも、なんだかおもしろくないので不服だが変更して「チキンピカタ」を作ることにした。

ピカタと聞けば、なんとなく「ああ、あれだな」と分かる人が多いと思う。わたしもそうで、なんとなくわかる。わかるが、実は今まで作ったことがなかった。なぜかというと、衣を纏わせて焼くなら、唐揚げの方が美味しいと思っていたからである。しかも、この本のレシピでは鶏むね肉を使うという。うーん、わたしは普段なら「鶏=もも肉」の一択。鶏のささみを棒棒鶏を作るときだけ、手羽先をお酢で煮込むすっぱ煮を作るときだけ使うくらいで他はほぼもも肉だ。だって、むね肉って固いしパサパサしてるし、喉に詰まりやすいし..。だけど、せっかくなので、ここはむね肉でいこう!

早速むね肉を買ってきた。レシピには書いていなかったけれど、前日から、少しでも柔らかくなるように塩こうじと料理酒に漬け込むことにした。

それをそぎ切りにしたら、卵や小麦粉などで作った衣の中にパプリカパウダーとクミンパウダーを入れると書いてある。両方とも家にあるはずだと思っていたら、クミンパウダーしかなかった。あーあ、確認すればよかった。仕方がないので「辛くないけどスパイシーなもの」ということで、パプリカパウダーの代わりにターメリックを混ぜてみた。もうこの時点でレシピ通りではなくなってしまったが、まあここはアレンジとさせてもらおう。

そんなことはさておき、ピカタとは衣の中に小麦粉などを入れて作るものだと初めて知った。例えばとんかつの場合、小麦粉→卵→パン粉の順番に付ける。果たして小麦粉と卵を一緒に混ぜた衣でカリッと焼けるのだろうか。中のむね肉はしっとりするのだろうか。

出来上がった辻仁成風のチキンピカタは、衣はカリッと肉はやわやわで家族にえらいこと評判だった。タルタルソースをつけて食べるが、チキン南蛮とも全然ちがう。これは、いつもの鶏もも肉で作っていたらちょっとくどかったかも知れない。むね肉のあっさりした味と油を吸ったスパイシーな衣の相性がすごくいい。

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ちなみに丸いもの、細長いものと、いろんな形のピカタになったのは、そぎ切りとは...?と、わたしが試行錯誤したあとの証である。普段はもも肉をぶつ切りにしかしないので、柔らかくなるようにそぎ切りするのに、あれこれ肉の向きを変えながら切ったら、こんな風になってしまった。

初めて作る料理は不安も大きく「これで合ってんのかな?」とドキドキするが、発見も多く、さらにそれが美味しかった時の喜びもひとしおだ。また、わたしの場合は今まであまり使う機会のなかったむね肉のレシピを自分のものにできたことがとても大きい。

普段から料理や食事に関するエッセイを読むのが大好きだけれど、また一冊お気に入りの本が増えて、とても嬉しかったのだった。(次は、イカめしを作ってみよう)