わたしのあたまのなか

わたしのあたまのなかの言葉を書きたい時に書く場所。覚えておきたい出来事やお出かけの記録、おいしいものについてもよく書きます。

さようなら、バイオレット

 

イギリスの名女優、マギー・スミスさんが先月この世を去ってしまった。

わたしはマギー・スミスさんも出演されていたイギリスのドラマ「ダウントン・アビー」が大好きだったので、彼女が亡くなったその日から自分なりの追悼イベントとして「ダウントン・アビー」の全6シーズンを1からもう一度観ることにした。

 

「ダウントン・アビー」とは、イギリスの大邸宅の名。このドラマは1912年から1925年を舞台に、そのお屋敷ダウントン・アビーに住む貴族のクローリー一家と、お屋敷の召使いたちを巡って繰り広げられるお話。ちなみに今も実在するハイクレア城というお城がそのロケ地となっていると書けば、大きなお屋敷のダウントン・アビーが想像しやすいかも知れない。

 

放送当時、新シーズンが出るたびに前シーズンの最後のエピソードもレンタルして(当時レンタルショップが近所にまだあった)復習のために観ていたけれど、1〜6シーズン全56話を一気に見返すのは初めてのこと。全てを観終わるのにかかった期間は約1ヶ月だった。

長いような、短いような1ヶ月だったけど、大好きな作品だったこともあり夢中で観ていたので、最後は「ついに、終わってしまうのか!」と、名残惜しくてたまらなかったし、全く飽きることがなかった。また、各エピソードをほぼ覚えている自信があったのに、見返してみると「あれ?こんな展開あったっけ?」などと意外と忘れていたことが多く、一度観たとは思えないくらい新鮮な気持ちでドキドキしながら観ることができて、本当におもしろかった。

(以下、ダウントン・アビーをまだ観ていない方はご注意ください)

マギー・スミスさんは「ダウントン・アビー」の中で、先代グランサム伯爵未亡人のバイオレット夫人として、誰もが恐れる存在ながらチャーミングで憎めない役を演じている。

愛を込めて呼ばせてもらうと、バイオレットは、歳をとってもいつも毅然としていて、貴族として生きる人生に誇りを持っていて、毎回めちゃくちゃかっこいい。

もし身近にいたら、皮肉屋で強情で、それはそれはなかなかに手ごわい存在だったとは思うけれど、わたしはこのドラマの中のバイオレットから、決して自分で自分を貶めず自信を持ち続けること、自分の中の正義の軸をいつまでもまっすぐに持ち続けること、そして、広く若い世界にも可能な限り歩み寄る柔軟さと愛を持ち続けること、そんな大切なことを教えてもらった。

日常の素のマギー・スミスさんがどのような性格だったかは知らないけれど、わたしの中ではバイオレットの印象が強すぎて、実際もあんな感じだったらいいのになと密かに思っている。

 

マギー・スミスさんってわたしがいくつか作品を観た中で気がついた時にはすでにおばあちゃんだったから、いつまでも画面の向こうに出続けてくれるような気がしていた。実際は89歳で亡くなっているけれど、わたしからすると永遠の70歳という感覚だ。不思議といつまでも元気なおばあちゃん、みたいな。

髪は白いし杖もついているし皺も年相応にあるけど、不思議な色気と品格と華があって、自分もいつかはこうなりたい!と、思える憧れの存在。それとともに、画面の中にいると安心できるような美しい大樹のような存在だった。

 

さて「ダウントン・アビー」のファイナルシーズンでは元気だったバイオレットも、その後に続いた「劇場版ダウントン・アビー」では、ついに彼女に病の影が潜み寄ってしまう。

わたしは当時「劇場版ダウントン・アビー」を映画館に1人で観に行ったのだけれど、その展開を迎えた時、同じく1人で隣に座っていた女性が息を呑む音が聞こえたのを覚えている。もちろんわたしも思わず口を手で抑えてしまった。きっとあの瞬間映画館にいた人たちは全員が、バイオレットだけではなくマギー・スミスさんも旅立つ日はそう遠くないんだろうな、と覚悟したはずだ。さみしいけど、それを打ち明ける時の堂々とした立ち振る舞いもバイオレットらしくて最善の展開だと思った。

 

ところで、わたしの勝手な追悼イベントはとりあえず6シーズン全てを観終えて一旦終了を迎えた。

シリーズとしては「劇場版ダウントン・アビー」と「ダウントン・アビー 新たなる時代へ」の2作品がまだ残っているけれど、それを全部観終わると、もういよいよバイオレットに会えなくなると思い知らされるようで、さみしくなってしまってなかなか行動に移せない。こうなると何のための追悼なのか分からなくなるけれど、今はまだもう少しだけドラマを全て観た余韻に浸っていたいので仕方がない。

ハリーポッターのマグゴナガル先生も凜としていてかっこよかったけれど、やっぱりわたしにとってのマギー・スミスさんはバイオレットだ。

さようなら、バイオレット。

少しだけ時間を置いて冬が来たら、温かいものを飲みながら残りのダウントン・アビーを楽しもうと思います。